上映会 / 田中良佑

田中良佑の映像作品の上映会を開催します。

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上映会 / 田中良佑
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日時:2016年1月30日(土)14:00〜20:00
※開場は13:30 ※途中入退場可
場所:お茶の水女子大学(詳細はメールでお伝えします)
定員:50名 参加費:無料

<参加申込>
https://goo.gl/MiMfTy
※申込は前日までにお願いします

【 スケジュール 】
14:00〜《 Over the Ocean 》
16:00〜《 Mud soul 》
17:00〜《 UNFINISHED 》
18:00〜《 Night forest 》
19:00〜 アフタートーク

【 上映作品 】
《 Over the Ocean 》(85分30秒、2015年)
 この映像作品は、僕が2015年の10月から11月にかけて沖縄の「コザ」という町に滞在しながら制作したものです。「コザ」は、「極東最大の空軍基地」という嘉手納空軍基地の目の前に広がっています。僕は、コザのメインストリートであり、嘉手納空軍基地第二ゲートに直結している大通り「ゲート通り」に49年間店を構えているタコス屋「OCEAN」を訪れ、入り浸り、その店長 屋良 靖さんと、お店に訪れる様々な立場のお客さんに話を聴く映像作品を制作しました。
 “コザ” その名前は一度聞いた時から、僕の耳に強く遺り、離れませんでした。その不思議な響きは、今から70年前、1945年にアメリカ軍が沖縄本島に上陸した時から生まれたそうです。上陸したアメリカ軍は、本来「越来村(ごえくそん)」という名だったその場所に、軍事施設や難民収容所を建て、その一帯を「KOZA」と名付けました。その由来は、隣接する「古謝(こじゃ)」「胡屋(ごや)」という地域の名前が混ざったもの等と言われていますが、はっきりとはわかっていません。現在「コザ」は、1974年に隣接する美里と合併し「沖縄市」となり、正式な地名として存在していませんが、今でもその場所は、かつての米軍統治時代の色を遺す混沌としたイメージとして、沖縄の多くの人に「コザ」と呼ばれているようで、何の知識も無く立ち寄った僕もいとも簡単にすぐここがコザであることをわかりました。
 2015年の8月、僕は映画撮影の手伝いに誘われ、高校3年生の修学旅行ぶりに沖縄を訪れました。高校3年生の時には見えなかったり感じなかった想像を遥かに超えた沖縄の美しさと哀しみに激しく混乱し、言葉も出ず立ち尽くしました。その時に僕は、もっとこの場所に長く滞在して「沖縄」のことを少しでも知りたい、なにかをわかりたい分かち合いたいと強く思いました。なかでも「コザ」に滞在したのは、その地域だけポッカリと虚空に浮かんでいるような、捉えがたく頭が全く追いつかない衝撃を、最も受けた場所だからでした。その”わからない”場所に住む事が、僕にとって「沖縄」を少しでも知るきっかけになるかもしれないと信じ込み、僕はその場所に滞在することを決めました。
 「OCEAN」。初めてその水色の看板を見た時から、僕は何故か無性に気になって気になってしょうがなかったお店。この滞在で、「OCEAN」の人々に話を聴いた理由は、うまく言えない。嘉手納空軍基地の目の前、米軍統治時代からのお店という前に、僕は「OCEAN」から滲み出る、人を突き放しながらも優しく受け入れるような空気のようなものを感じて、本能的に、この場所の人に話を聴きたい、と思いました。それは、理解りえないものへの断絶感と、身勝手な憧れと、わかちあえる部分が必ずあるかもしれないという希望のような感情を同時に、「OCEAN」の佇まいに感じたからかもしれません。その場所で僕は、同じ時代を生きるものとして、違う場所で生まれ育った者として、わかりあえないものとして、わかりあえるかもしれないものとして、とにかく、今まで聞いた事のない話を、聴き続けました。
※この映像の中で話されている内容は全て一個人の話であり、総意や事実というものでは決してありません。


《 Mud soul 》(40分40秒、2014年)
東京最大のホームレスの街「山谷」についての作品を作る事にした私は、ホームレスの方から一人を決めて、その人の人生についての記憶から作品をつくろうと考えた。そして、山谷に入り込んで、沢山のホームレスの方々の中から「西田さん」という方とお近づきになっていく。しかし、ホームレスの方に話を聞く難しさや反発、なによりも、作品の為にホームレスを”利用”しているという罪悪感や葛藤にさいなまれ制作は難航した。「Mud soul 濁った魂」は、作家が立場の違う他者を利用する事自体のリアリティについての映像作品である。


《 UNFINISHED 》(46分10秒、2014年)
秋田県は日本一の高齢化社会が進んでおり、そして日本一 自殺率が高い県である。秋田県大館市で51年間営まれている喫茶店「未完成」は、営業当初はクラッシックを流す。「名曲喫茶」(イケてる店の名前はシューベルトの「未完成交響曲」に由来している)であり、若者の恋愛や喧嘩の舞台であったという。しかし月日が経ち、名曲喫茶では続かなくなり、インベーダーゲームやカラオケを導入して、他の喫茶店が次々潰れる中でもいびつながら時代に合わせて営んできた「未完成」は、現在では、街のお年寄りが毎週カラオケを歌いにくる場、になっているという。そんな話をたまたま街を散策する中で聴いた私は、その「未完成」にくすぶる、社会や人生への嘆きや喜びを、作品化しようと考えた。そしてそれは、衰退していく地方社会、急速に進む高齢化社会への必要な投げかけになると思った。


《 Night forest 》(30分40秒、2015年)
福島県双葉郡富岡町(現在居住制限区域)にある「回転寿司アトム」。ニュースや本で「原子力ムラを象徴する」お店として取り上げられているのを観て、僕は店長にどうしても会いたくなった。あの日から4年がた経った。現在の気持ちを聴きたくなった。アトム寿司の店長 佐藤さんがいわきで焼き鳥屋を開店した事を知り、電話をさせていただき、会いに行った。幼少期の原子力と町の思い出、震災時の状況、心境を伺う中で、「アトムのお店の看板を貸して下さい」という無茶なお願いをした。4年前の3月11日から消えたままだった看板を、再び煌煌と点灯させる。あの日の日常、あの日の僕達、「アトム」というその光を。



田中良佑|Ryosuke Tanaka
1990年香川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科在籍。主な展覧会に「STRONG SMART 賢明と傷心」(3331 Arts Chiyoda, 東京, 2015)、大館•北秋田芸術祭2014「里に犬、山に熊」(大館商店街, 秋田, 2014)、「泪の上で」(泪橋交差点, 東京, 2014)など。社会の中の“それぞれの私”という考え方で、人を受動的にまとめてしまう社会や歴史のシステムについて、映像、パフォーマンス、プロジェクトなど様々な方法で取り組む。“それぞれの私”が本来抱える言葉にならない思いや可能性を形にして、能動的に生きる方法を探っている。
http://lalalalarush.wix.com/ryosuke-tanaka